東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)55号 判決
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〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 当裁判所は、以下説示する事由により、本件審決は第一引用例および第二引用例の技術内容についての認定を誤り、かつ、本願発明の有する顕著な作用効果を看過して、本願発明がこれら引用例から容易になしうるものとの誤つた結論を導いたものであり、違法として取り消されるべきものと判断する。
1 前記争いのない事実に、本願発明の特許願書添附の明細書ならびに昭和四〇年九月一三日付、昭和四二年七月一八日付および昭和四三年八月一九日付手続補正書を総合すると、本願発明の要旨は、「機械の一部分とこの部分内に軸承された回転軸との間に介装すべきシール組立体にして、少なくとも一つの環状部材と弾力物質製二次シール部材とを備え、前記環状部材は軸方向および半径方向に分かれて延び、その間に前記二次シール部材を受け止めるための受座を形成する面を有し、前記二次シール部材は軸方向ならびに半径方向に弾圧を具備する截頭円形錐の輪状体をなし、その一端縁は前記環状部材の受座に受け止められ、前記二次シール部材の他の端縁は前記機械の一部分もしくは前記回転軸に対し直接圧着され、かくして、前記二次シール部材は半径方向にも軸方向にも制限を受けずに弾力的に拡張および変形して二次シール部材の内外周端縁が前記機械の一部もしくは前記回転軸と前記環状部材の受座とに直接摩擦的に錠止され、かつ、該環状部材の一部を機械の封塞部分に摺動的に圧接させるようになつているシール組立体」であり、明細書の「発明の詳細な説明」の欄には、従来の回転端面シールは、作動効率、製作の経済性および設置の容易さという点で問題があつたが、本願発明はこれらの問題点を解決することを課題とし、軸方向と半径方向に分かれて延びた環状部材(L形環状部材)と弾力物質製二次シール部材(輪状体)の組合せによる前記構成により、この課題を解決し、長い間故障がなく、効率よく作動し、また、経済的な製作および設置ができるような端末面シール組立体を提供したものであり、本願発明のシール構成によると、圧縮性ゴムまたはゴム状の材料で作られた截頭円錐状の二次シール部材は、L形環状部材と係合してこれに半径方向および軸方向へ圧力を及ぼすように設計配置され、シール部材の設置角度を適宜調整することにより、L形環状部材のシール表面接触圧力は軸方向において毎平方インチ約五ないし一五〇ポンドの範囲内の圧力を、また、半径方向においては軸方向の力の五倍程度の圧力を得ることが可能であるとともに、この結果、二次シール部材を介してのトルク伝達をも行なうことができ、シール用圧力、シール作動トルクおよび効率的な二次的シール作用の三つの基本的な機能を果たすという作用効果を奏することを認めるに十分である。
2 一方、第二引用例は、一九四二年七月七日特許にかかるエンドスラスト(端部推力型)オイルシールに関する米国特許明細書であるところ、それには、截頭円錐形の弾性体で作られた円板12の内周25を内側リング10の傾斜した溝19に、該円板の外周26を外側リング11の傾斜した溝24に緊密に嵌合挾持してなるシール(別紙二の図面参照)が示されており、このシール構造においては、円板12は平たい薄板材料を切断するか、平たい形状か円錐状に型により成形され、組立に際しては円板の内周25を引き伸ばして内側リングの溝に嵌入せしめるものであること、円板12により内側リング10および封止面17に対し軸方向に加えられる力の大きさは、円板の厚さ、両リングにおける溝の外方縁部間の距離、両溝の底面に対する円板の内外両周面の密着度等により決まるが、封止面の面積一平方インチにつき六ないし一〇ポンドの範囲の圧力が非常に良好であり、この圧力は主として円板の材料の撓曲とは異なる圧縮によるものであることが認められる。叙上認定の事実から、第二引用例における円錐形円板12は、内側リングおよび外側リングの傾斜溝に嵌入密着させるため、必然的にその厚さは薄くならざるをえず、また、その設置角度も制約を受けることは明らかである。これを本願発明と対比するに、本願発明においては、前認定のとおり、輪状体はその厚さおよび設置角度において制約を受けるものではなく、また、シール圧力を第二引用例に比しきわめて広範囲に生ぜしめうる効果があり、それがL形環状部材を採用した結果であるにせよ、第二引用例の円錐形円板とは、叙上の点において構造および効果を異にするというべきである。
また、第一引用例は、昭和三一年六月二〇日出願公告にかかる「メカニカルシール」の構造に関する実用新案公報であるが、それには、非回転密封管としてのL形環状管4をシャフト2に遊嵌し、クッションリング3を介してケーシング1に挿入した構成のものが示されており、クッションリング3はL形環状管4とハウジング1との隙間全部に嵌合されており、転摺密封端面Zに対するシール圧力は、クッションリング3の弾性が全く無関係ではないにしても、その弾性圧により決まるものではなく、スプリング14、10による主密封管5および補助密封管7への押圧力に基づくものであることを認めることができ、叙上認定の事実に徴すると、クッションリング3がL形環状管に加える圧力は、本願発明において二次シール部材としての輪状体がL形環状部材に加える圧力とは異なり、主として軸方向の圧力であつて、半径方向の圧力ではなく、また、第一引用例のL形環状管とクッションリングとの間には、本願発明のようにL形環状管との係合を利用して輪状体の設置角度を変え、シール圧力を調整するという技術思想を認めることはできないから、シール構成部材としてのL形環状部材の利用の仕方において、第一引用例と本願発明とはその技術思想を全く異にするものがあるというべきである。
3 被告は、本願発明は、第二引用例の弾性を有する截頭円錐形の輪状体を支持する部材として、第一引用例のL形環状部材を用いたものにすぎないし、その効果も当然予期しうる程度のものと主張するけれども、第二引用例の輪状体および第一引用例のL形環状部材の有する技術的構成または機能が本願発明の輪状体およびL形環状部材のそれと異なることは前説示のとおりであり、前認定の本願発明が奏する顕著な作用効果に照らしても、本願発明が単に形式的にこれら引用例の両部材を組み合わしたにすぎず、両引用例から容易になしうるものということはできないから、この点の被告の主張は理由がないというべきである。
以上説示のとおり、本願発明は第一引用例および第二引用例から容易になしうるものとは到底いいえないものであり、本件審決はその判断を誤つた違法がある。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に違法があることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容する。
(三宅正雄 土肥原光圀 武居二郎)